噂の中学生監督の長編デビュー作。沖縄での公開を見逃したので、東京出張のタイミングを見計らって、池袋で観て来ました。ちょうど舞台挨拶もあったのもあって、タイミングよかったです。
ちょっとネタバレに気をつけて書かなくちゃ。あらすじは、割愛します。
映像を観れば分かる、監督の感性とスタッフの素晴らしさ。
いきなり「沖縄の冬休み」が舞台になる。フツー、沖縄といえば「夏」。フォトジェニックな風景と、南国のコントラストが眩しく映るスクリーンを期待するものです。
でもそんな沖縄というのは、一年のうち三ヶ月ぐらいで、雨も多く、あまり天気に恵まれないのも沖縄です。そんな湿った空気感もちゃんとうまく描かれ、まるで山原(ヤンバル)の匂いまで伝わるようでした。
そして、「冬休み」なのに川遊びをしている(笑)など、これも沖縄でよく見られる風景。
しょっぱなから出て来る母子の寝相のシーンは、ふっと笑いました。あのシーンのおかげで、母と子のぶっきらぼうだけどフツーな関係、でも切っても切り離されない関係を最後まで途切れることなく、感じ取れました。
そして、同じ沖縄の子だけれども、那覇の子と山原の子の違い。服装もそうだし、持ち物も。細かいところで、沖縄の中でも土地の育ち違いが手に取って分かります。
基地の風景、山原の街灯のない暗闇、道のまん中を走る車(そこがまた田舎っぽいのだ)、基地を誘致しようとしている議員候補、足が痛いのを言い訳に仕事せず、昼からお酒飲んでるちょっとダメなおじさん、近所の人、その人間関係や力関係までもが伝わって来ました。
このように映像だけで語られているシーンや登場人物がとても多く、沖縄の方言が頻発しようとも、すんなりと沖縄の田舎の日常に惹き込まれて行きます。
沖縄の人が、日常的に受け入れている事が、描かれているのです。
私は、映像のプロではないので、どう言えばいいのか分からないのですが、フツー、逆からじゃない?とか思うシーンなど、ところどころプロがやりそうにないカメラワークがあります。たぶん、それはプロのスタッフと監督が多くのディスカッションを重ねた映像なのだと思う。そういうところどころに新鮮味があるために、全体的にとても素朴で、好感度の高い作品になっています。
公開初日から「大好評公開、No.1」とか言うようなステレオタイプな映画が多い中で、とても嬉しい作品に出会えたと感じました。
監督本人にとっては「自分」ではなく「作品」を観て欲しいと。
で、テレビだのなんだのと「天才中学生監督!」なんて持ち上げられていますが、それは別。大人たちの都合と、安上がりなシナリオであることはすぐに分かります。でも、それはそれで仕方が無い。それをきっかけに、本当に応援してくれる人が出てくるのも確か。利用できるものは、利用しようというのも痛く分かります。
でも、池袋で聞いて来た舞台挨拶でも取材でも、監督本人がちゃんと自分の言葉で語っている様子には、監督本人自身の作品に対する自信のあらわれにも見受けられました。周囲の大人たちには負けていない、映画を作ったんだという自負です。
そして、その本音もちゃんと,監督自身のブログで語られています。
映画というのは、本来監督一人で創り上げるものではないはずです。多くの人が関わって一つの作品が出来上がります。作品を観れば、監督の描きたい映像を、映画スタッフたちが真剣に受け止め、本気で向き合ったというのが分かるはずです。あの作品に関わったスタッフは、いわば「仲村颯悟組」と言えるのではないでしょうか。(なんだっけ、監督の名前をつけて◯◯組ってよく言いますよね?あれです)
何はともあれ、映画を観てから「何か」を言うべき作品です。オススメ。
周囲を取り巻く大人たちによって、子供の成長は大きく影響される。
映画の話とはまた別ですが、監督は、最近15歳になったばかりです。大人の仕事をしていますが、まだまだ子供です。そして、前にも記事で書きました。子供は社会からの預かりものです。
作品から伝わって来るスタッフをはじめ、彼を取り巻く大人たちの対応の素晴らしいこと。特にプロモーションでほぼ一緒に行動している井手プロデューサーの彼に対する対応にも感激しました。
井手さん自身も子供がいるというのもあるのだろうけれども、今知らなくてもいいことや、今必要なことに対して、ちゃんと「彼を預かる大人」として向き合っているし、過ごしている(たとえば、営業先で贅沢なお店に連れていかないとか、学業が本業であることを優先させているとか)。そして、その土地土地で彼が見たいもの、聞きたいものをなるべく多く触れさせている。
そして、映画をつくったあとのビジネスに対しても、ちゃんと彼に「仕事」として与えているし、向き合わせている。
彼を、大切に育てようとしているのがよく分かります。
15歳の年齢で、こんなチャンスに恵まれることやいい大人たちに囲まれることはほとんどない。周囲にいろんな大人もいるだろうし、ずいぶんとストレスにもなっていると思います。
彼は、これからも今の大人たちよりももっと多くの出会いや出来事が待ち受けているはず。それを遮断せずに、もっともっと多くの可能性に惹き合える様にしてほしい。決して「映画監督」だけが、彼の人生すべてになることはないのです。だって、まだ15歳なのですから。
これからも、ぜひ楽しみながら、可能性を拡げて欲しい次世代の子。
そして、彼だけではなくもっと多くの子が、彼ほどでもなくとも、多くの機会に恵まれ、適切な対応をする大人たちに巡り会いますように。
「やぎの冒険」、作品そのものも好感もてましたが、それ以上に、私にとって多くのものを感じ、考え、期待するものとなった作品でした。
