久々に小川洋子さんを開きました。いつぶりかと思ったら「博士の愛した数式」以来でした。
神戸出張で飛行機の中で何か読もうと思い、目に入ったのがこのタイトル。これは、そそられるでしょう(笑)。
チェスという小さなゲームから繰り広げられる主人公の数奇な人生を静かに、切なく、語りかけるように物語が進んで行きます。
実は、読み始めてからしばらくしてから「あ、チェスの物語か...」と、気付きました。帯にも書いてあるし(笑)、本当にタイトルだけで手に取ったらしい、私。
で、中盤チェスの棋譜からゲーム展開の話が続いて、ちょっと辛かったです。だって、チェスに興味がない上に、何が何やら分からなくて、本の頭に用意されているチェスの資料を何度も捲り返しながら読まなくては、意味が通じない。
途中、閉じようかとも思ったぐらい(苦笑)。
でも、冒頭の大きくなりすぎてデパートの屋上から出られなくなり、生涯そこで暮らすことになった象から始まる伏線は、とても静かに織りなして行く。
大きくなりすぎてデパートの屋上から出れなくなった象、インディラ。家の壁と壁の間に挟まれて抜けられなくなってしまったミイラ。 改装したバスを住まいにし、そこから出られなくなったマスター。大きくなることは、不幸になること。
そんな人生を、主人公は恐れていた。
主人公は何も語らずに、静かに、淡々とチェスを指しながら、生涯を全うする。
そして、チェス人形の小さな箱の中での暮らしを受け入れる。 大きくなりませんようにと願いながら、出来る限りの自分の役割(チェスを指す)を誠実に、懸命に向き合っていた。とても繊細に、チェスをいろいろなカタチで愛する人々が主人公のそばを通り過ぎて行く。チェスだけを通して。
とても切なく、美しく、誰にも気付かれない小さな奇跡が散りばめられている。
小川洋子さんの作品は、静かで切ない作品が多いけれども、本作はそれ以上にかたくなに語らない作品だったのではないでしょうか。独自の世界観が、嫌み無く染み入る作品でした。
